土地や建物の所有者になった後、引っ越しで住所が変わったり、氏名が変わったりすることがあると思います。
市町村役場で手続きをすることで、住民票や戸籍の記載は変更されますが、登記の記載は自動的に連動して変更されません。
登記の記載を新しい住所や氏名に変更するには、法務局に変更登記を申請する必要があります。
ただ、登記事項というのは実生活において、影響を受ける機会があまりありません。
例えば、不動産を売る・抵当権を設定または抹消するといった際、現住所と登記事項に記載してある住所が異なる場合は、必ず変更登記をしなくてはなりません。
けれども、そういった状況にならない限り、住所(氏名)変更登記をしなくても、所有にあたって支障がないのです。
では、必要に迫られるまで住所(氏名)変更登記をしなくて良いかと聞かれると、司法書士としては「しなくて良いです」とは言えません。
とりわけ住所が変わった時は、スムーズに変更登記をして頂いた方が、後々面倒がありません。
住所が変わるケースとして、引っ越し・行政による区政施行や住居表示実施があります。
住居表示実施による住所変更の場合、書類は市町村役場が交付してくれ、登録免許税も不要です。
区政実施にいたっては、そもそも変更登記が不要な場合もあります。
問題となるのは、単純に引っ越しによる住所変更です。
特に注意が必要なのは、転勤等で各地を転々をしている方。
住所変更の登記には、いつ・どこへ引っ越したのかを証明するために、住民票もしくは戸籍の附票を添付しなくてはなりません。
ところが、住民票(附票)は5年間しか保存されていないのです。
住所変更をしないままでいると、どれだけ面倒か。
少しややこしいのですが、実務的観点から具体例をあげます。
不動産を買った時は、A市に住んでいたけれど、その後B市、C市と引っ越して、現在はD市に住んでいる…という場合。
登記事項に記載されているA市から、D市に転居したことを証明しなくてはなりません。
まず現在の住所の証明としてD市の住民票が必要になります。
D市の住民票には、●年●月●日C市より転入…と、C市から引っ越してきたことがわかる記載があるはずです。
しかし、A市に住んでいた記載はありません。
そこで、B市の除票を取得する必要が出てきます。
B市の除票を見れば「○年○月○日A市より転入」「△年△月△日C市へ転出」の記載があるので、ここで初めて、A市からD市まで、住所の遍歴が繋がるわけです。
けれども、B市から引っ越しをして5年以上経っている場合。
住民票の保存期間を過ぎてしまっているので、住民票(除票)を取得することができません。
A市からD市まで、住所の繋がりを証明することができないのです。
ではどうするか。
戸籍の附票を取得してみます。
戸籍の附票は戸籍を基準に住所が記載されているので、住民票で住所が繋がらない場合でも使える可能性が高いです。
ただ、引っ越しの度に本籍を変更している方の場合は、附票の保存期間も過ぎていて、住所の証明ができないこともあります。
また、本籍を変更していなくても、平成6年以降、戸籍がコンピューター化されて新しくなっているので、それ以前の住所を証明したい場合も、附票は使えません。
ここまで手を尽くして住所の繋がりが証明できないなんて、滅多にないだろうと思われるかもしれませんが、実務経験上、結構な頻度でよくあります。
※住所の繋がりが証明できない場合は、登記済権利証や登記識別情報があれば、変更登記可能です。
手続きの煩雑さを踏まえて、住所変更の登記は早めにして頂くことをおすすめします。
…とここまで解説したところで、1つ朗報が。
総務省の有識者会議で、住民票の保存期間を5年から150年に伸長する報告書がまとめられたと、先日報道がありました。
来年の国会に改正案が提出されるそうです。
150年というと、戸籍と同じ期間、保管されることになります。
これは相続未了による所有者不明の不動産について、持ち主を見つけやすくするための施策なのですが、住所変更登記における「住民票が旧住所と繋がらない問題」にも貢献してくれるので、是非通って欲しいものです。
追記
住民基本台帳施行令の一部改正(令和元年6月20日施行)により、住民票の除票の保存期間は150年に延長となっています。
延長となったからと言って先送りにしてよいわけではなく、早めの登記手続きなどをオススメしたいと思います。
費用一覧ページ → その他 不動産登記
の費用欄についてご覧いただければと思います。