以前の記事「相続手続き、いつまでにする?」で、早めの手続きをおすすめしました。
今回は、放っておいた相続はどうなるか、過去の実例をお話したいと思います。
ご相談者はAさんとします。
最初のご相談は「数年前に亡くなった義父の相続登記をしたい」といったものでした。
この時、Aさんからのヒアリングで得た情報によれば
1.相続すべき預貯金がいくらかある。
2.義父は元は地主の家系で、受け継いできた土地が幾らかある。
3.相続人は、養子・Aさん(いわゆる婿養子)・Aさんの義妹・Aさんの実子(長女・Aさん妻の代襲相続人)の3人である
ということでした。
![最初はシンプルな相続人関係](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/dimension=696x10000:format=png/path/s78baf40aa5eb34cc/image/i6c850e36e4be65fb/version/1613464932/%E6%9C%80%E5%88%9D%E3%81%AF%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%AB%E3%81%AA%E7%9B%B8%E7%B6%9A%E4%BA%BA%E9%96%A2%E4%BF%82.png)
このような相続関係になります。
三人の相続人で協議もまとまっており、あとは遺産分割協議書を作成して、各相続手続きを行うだけ・・・
義父が亡くなったのは数年前なので、必要書類収集も、そこまで困難ではなさそうです。
シンプルな相続案件だと考え、受託しましたが、不動産の調査を開始したところ、とんでもない事実が判明しました。
Aさんの義父の相続財産であるはずの不動産、所有者が義父ではなかったのです。
義父は、生前確かにそれらの不動産を管理し、固定資産税も納付していましたが、登記名義上は別人の所有でした。
姓はAさんと同じでしたので、親族であろうことは推測できましたが、Aさんにも心当たりのない方との事。
平行して戸籍の調査を進めた結果【Aさんの義父の祖父】の名義であることが判明しました。
つまり、曽祖父の代から相続手続きを放置し続けていたということです。
![相続未了土地に悩む50代女性Aさんの妹のイメージ](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/dimension=300x10000:format=jpg/path/s78baf40aa5eb34cc/image/ica3f9719b281d376/version/1615250502/%E7%9B%B8%E7%B6%9A%E6%9C%AA%E4%BA%86%E5%9C%9F%E5%9C%B0%E3%81%AB%E6%82%A9%E3%82%8050%E4%BB%A3%E5%A5%B3%E6%80%A7a%E3%81%95%E3%82%93%E3%81%AE%E5%A6%B9%E3%81%AE%E3%82%A4%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%82%B8.jpg)
このような案件の場合、まず曽祖父がいつ亡くなったか、によって、相続手続きは大きく変わります。
戦前は「家督相続制度」によって「家督相続人」が全ての財産を相続していました。
現在のように、法定相続分といった考え方はなく、協議も必要ありません。
昭和22年5月2日までに亡くなった人の相続については、この家督相続により手続きを行います。
Aさんは曽祖父から見て長男の家系(所謂本家筋)にあたるので、家督相続であれば、話はほんの少し楽になります。
しかし、Aさんの曽祖父が亡くなったのは、昭和40年に入ってからでした。
家督相続ではなく、現民法による手続きが必要となります。
まず、主軸となる曽祖父の相続ですが、曽祖父が亡くなった時点の相続人が誰かを調査します。
曽祖父の出生から死亡まで、全ての戸籍を調査します。
曽祖父の配偶者と子供が相続人です。
曽祖父は明治前半生まれ。当時は子沢山の時代。。。相続人は5人いました。(少ない方です!)
相続人は、みなさん大正生まれです。
お一人を除いて、全員他界されていました。
二次相続の発生です。
![2次相続と代襲相続で頭をかかえてしまう](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/dimension=259x10000:format=png/path/s78baf40aa5eb34cc/image/id72053034ff2f80b/version/1615250523/2%E6%AC%A1%E7%9B%B8%E7%B6%9A%E3%81%A8%E4%BB%A3%E8%A5%B2%E7%9B%B8%E7%B6%9A%E3%81%A7%E9%A0%AD%E3%82%92%E3%81%8B%E3%81%8B%E3%81%88%E3%81%A6%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%86.png)
亡くなっている方(4人)の相続人を調査しなくてはなりません。
こちらも、亡くなっている方の出生から死亡まで、全ての戸籍を調査する必要があります。
一体何通取得すれば完了するのか・・・除籍謄本や改製原謄本は1通750円かかるので、費用もバカになりません。
お一人5通位でおさまることが多いので、ざっくり
750円*5通*被相続人5名=18,750円・・・(涙)
亡くなっている方は大正生まれ、そのお子さんは戦前戦後の昭和初期のお生まれの方たちです。
関係的にはいとこ同士になりますね。総勢10名相続人がいました。
この中に、大本の依頼であるAさんの義父もいらっしゃいます。
ご存命だったのは5名のみ・・・亡くなった5名の相続、三次相続の発生です。
このように、相続手続き未了のうちに、相続人が亡くなってしまうケースを、数次相続と言います。
最初の相続が発生した時点で、次に亡くなった方は相続財産を承継する権利があったわけです。
手続き未了のうちに亡くなってしまったからと言って、無視して手続きを進めるわけにはいきません。
相続人の立場は、その相続人が承継します。
被相続人が複数いることで、通常の相続と比べて難易度が上がります。
この文章だけ読んでいても、ピンとこないですよね・・・(^_^;)
ご依頼時にイメージした相続関係図を最初の方に記載しましたが、最終的な相続関係図は、このようになりました。
![親族関係が謎に拡大してしまったの図](https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/dimension=729x10000:format=png/path/s78baf40aa5eb34cc/image/i121589506060aa7b/version/1613464991/%E8%A6%AA%E6%97%8F%E9%96%A2%E4%BF%82%E3%81%8C%E8%AC%8E%E3%81%AB%E6%8B%A1%E5%A4%A7%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%81%AE%E5%9B%B3.png)
青いマスキング部分が、今回の依頼人であるAさんです。
登記名義人は、赤いマスキングの曽祖父です。
調査の結果、相続人は総勢18名となりました。
もしAさんの義父や祖父が、きちんと相続手続きをしていれば、もっとシンプルな手順で済みました。
「登記しなければ、税金の請求がこない」なんて間違った知識も昔はまかり通っていたようで、こういったケースはたまに見かけます。
Aさんは、会った事のない親戚と、遺産分割協議をしなければなりませんでした。
実質、Aさんの義父が管理維持してきた不動産とはいえ、売ればそれなりの金額になるはずです。
18人の相続人全員が、Aさんが相続することに納得するとは限らないのです。
かと言って、登記名義をAさんにしなければ、今後不動産を担保に入れてローンを組むことすらできませんから、不動産の建て替えや投資運用もままなりません。
今回は地主さんのお話でしたが、これは一般家庭でも変わらないのです。マンションや一軒家などのマイホームの相続でも同じです。
放っておけばおくほど、手続きは煩雑化し、費用も増えていきます。
相続手続き未了の方、疎遠な親族との連絡・調整などが難航しそうな方は是非お早めに専門家にご相談下さい!
ブログテーマ → 相続
→ 遺言
業務のご案内 → 相続手続きについて のページも参考になるかもしれません。
関連記事