遺言書作成のすすめと共に、相続手続きはお早めに…と何度かこのブログで発信させて頂きました。
今回は、遺言書が存在するにも関わらず手続きを先延ばしにしていたら、遺言執行者が亡くなってしまった事例をご紹介したいと思います。
相続手続きのご依頼にいらっしゃったAさんは、かなりのご高齢でした。
亡くなったのは、Aさんのお兄様。
生涯独身で、お子様がいらっしゃらないため、法定相続人はAさん・Aさん甥・Aさん弟です。
相続関係を図に表すと、このようになります。
しかし、Aさんのお兄様は、本来の相続人ではなく、献身的に介護してくれたAさんの妻に、所有している神奈川県と群馬県の不動産を遺贈(遺言(ゆいごん・いごん)によって、財産を相続人以外の者に贈ること)をしたいと考えました。
そこで、受遺者をAさん妻・遺言執行者をAさんとする、遺言書を作成したのです。
「遺言書を書きたい」のブログ参照
「終活」としては万全です。
ですが、肝心の遺言執行者であるAさんが、兄亡き後、相続手続きに着手しないまま数年放置していました。
自分も年をとったし、早いところ手続きしないと…と重い腰をあげて、ご来所されたわけです。
遺言書もあり、遺言執行者もきちんと指定されているので、相続手続きとしてはスムーズです。
必要書類を準備し、署名・押印が必要な書類をAさんにお渡ししました。
署名・押印した書類を持ってきて頂ければ、あとは法務局に申請するだけです。
ところが…
待てど暮らせど、書類を持ってきて頂けません。
お電話をしても、連絡が取れず。
どうしたものかと困っていたところ、Aさんの長女から、Aさんが亡くなったとご連絡があったのです。
遺言執行者であるAさんが亡くなってしまいました。
更に、Aさんは、亡きAさん兄の相続人でもありました。
数次相続の発生です。
【数次相続】放っておいた相続案件 のブログ参照
遺言執行者が亡くなってしまった場合、遺言書どおりの相続手続きをするには、2つ方法があります。
1.家庭裁判所に遺言執行者選任の申立を行う
裁判所によって、Aさんの代わりとなる遺言執行者を選任して貰う方法。
代わりの遺言執行者は、未成年や破産者以外であれば、制約なく就任することができます。
2.亡きAさん兄の相続人全員が登記義務者となって、Aさん妻に遺贈の登記を行う
Aさん兄の法定相続人全員からの委任状、印鑑証明書(3ヶ月以内)が必要です。
遺贈は「本来相続人でない人物」に相続財産を引き継ぐことになりますから、法定相続人が納得していなければ、この方法はとれません。
Aさんのご家族(妻・長女・長男)は、Aさん兄の遺言書に親族全員が納得していること、裁判所での手続きは面倒と感じたことから、2の方法を選択しました。
Aさん兄の相続人である、Aさん甥・Aさん弟。
Aさん兄の相続人であったAさんの相続人である、Aさん妻・Aさん長女・Aさん長男。
(こんがらがりますね・笑)
この5名が登記義務者として、委任状・印鑑証明書を準備することになります。
※Aさんの妻は、不動産を貰う立場…つまり登記権利者ですが、Aさんの相続人として、登記義務者も兼ねることになります。
当方で委任状を作成し、各自署名押印・印鑑証明書を取得して頂いて、合わせてご返却頂く段取りとなりました。
委任状と印鑑証明書さえ揃えば、あとは法務局に登記申請するだけです。
ところが…
この流れ、このブログの中で2回目ですね・・
待てど暮らせど、書類を持ってきて頂けません。
果たしてどうなるのか・・?
しかし二ヶ月程して、無事に書類が当方に戻ってきました!
いよいよ、やっと、登記申請です。
(ここまで半年以上かかっています)
不動産は、神奈川県と群馬県です。
こういった場合、署名・押印頂く書類は、管轄法務局毎に作成します。
しかし、戸籍謄本等は基本1部取得し、原本を還付して貰って使いまわします。
つまり、神奈川県管轄の登記が終ってから、群馬県管轄の登記を申請するわけです。
登記は、時期や管轄法務局にもよりますが、概ね1週間から2週間程で完了します。
察しの良い方は、もうお気づきかもしれませんが…
神奈川県管轄の登記は無事完了しました。
さあ次は群馬県に申請だ!と思ったら、登記義務者の印鑑証明書の有効期限(3ヶ月)が切れていたのです。
登記義務者の方には、委任状2通の署名押印・印鑑証明書2通のご準備をお願いしました。
揃った時点でお持ち頂ければ、有効期限内に二管轄の登記申請は完了していたはずです。
Aさんのご家族が、二ヶ月程書類を温めてしまったが故に、印鑑証明書の再取得が必要となってしまいました。
困ったのは、Aさんご家族です。
親族の皆さんは、Aさん妻が不動産を取得することに、何の異論もありませんでした。
しかし、Aさんの兄が亡くなって数年。
相続手続きをしてこなかったAさんのルーズさに、少し辟易していたのです。
結局Aさんは、遺言執行者の責務を果たさないまま、亡くなってしまいました。
更に、ここにきて、Aさんご家族の動きが遅かった故に、印鑑証明書の再取得が必要に。
「とてもじゃないけれど、再取得はお願いできないです…!」と、Aさん妻は狼狽されていました。
面倒だから、ちょっと後回し…つい日常に追われて…
そんな風に、どんどん時間が過ぎてしまうのも、わかります。
けれど、手続きしないままでいると、最終的に必要以上の手間がかかることになってしまうのです。
遺言書を遺されたAさん兄の努力も、徒労に終ってしまいます。
【遺言書があるから、手続きはいつでも】ではなく、速やかに遺言の実現に向けて動いて頂きたいと思います。
さて、Aさんご一家の「印鑑証明書の再取得」問題。
再取得はお願いできないと言っても、登記を申請しないわけにもいきません。
そこで、2つの方法をご提案しました。
1.印鑑証明書の再取得をお願いする
2.Aさん兄及びAさんの数次相続において、Aさん妻が相続する旨の遺産分割協議書に、署名押印をお願いする
今回のケースでは、Aさん兄の相続未了のうちに、法定相続人であるAさんが亡くなってしまいました。
Aさんの相続人であるAさん妻・Aさん長女・Aさん長男は、Aさん兄の法定相続人の立場を相続します。
ですから、Aさん兄の相続人全員が、Aさん妻が相続する旨、遺産分割協議で合意に達すれば、登記が可能です。
遺産分割協議書に添付する印鑑証明書には、3ヶ月以内といった有効期限がありませんから、前回お預した印鑑証明書をそのまま使うことが可能です。
印鑑証明書は、少なくとも開庁時間に役所で取得する必要がありますが、遺産分割協議書の署名・押印は、時間の制約がありません。
Aさんご家族は、迷わず2を選択し、親族の方に署名押印をお願いするお詫び行脚に出られました…
かくして、やっと、無事にAさん兄の相続手続きは完了したのです。
各ご家庭やご遺族の事情などは本当にケースバイケースです。
今回のケースに限らず、万全と思っていても時間の経過と供に状況に変化が生じることもあります。
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P.S
コロナウイルスの感染拡大を受け、生活様式の急変・突然の死のリスクと言うものを身近に感じる方も増えているのではないでしょうか?感染してしまってからでは面会謝絶であったりと、人と会うのもままならず各種手続きを進めるのが難しくなるケースもあります。
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