遺言書保管制度開始から1年・その影響と課題

遺言書保管制度の利用件数

 

2020年7月から遺言書保管制度が始まって、早いもので1年が経ちました。

 

自筆証書遺言のデメリットの一つである、紛失・保管への不安に関してのみ、法務局で遺言書を預かることによって解決しようというものです。

 

下記表は法務局が公表している遺言書保管制度の利用状況の表です。

 

 

 

制度の利用を待ってました! とばかりに、昨年の7月に件数が集中しているのが下の表からわかります。

 

 

 

遺言書の保管申請件数が令和3年までの累計で16,721件に対し、実際の保管件数が16,655件であることから、不備などで保管に至らなかったものなどが66件あることも読み取れます。

 

 

法務局では遺言の内容の不備に関しては関与しないため、内容に関してではなく、書式・書き方レベルでの不備が有ったものと思われ、遺言への意識が高く法務局までご本人がわざわざ出向いていても、失敗するケースがあるのだと知っておいて欲しいものです。

 

 

 

さらには、表の中で遺言書情報請求書の交付請求の件数は 163件となっており、保管申請された約16,665件に対し、約1%の方が1年以内にお亡くなりなり、遺言を確認・執行されたのだと推測できます。

   

  

令和2年の7月、8月、そして10月が月当たり2000件を超え、令和2年末までは比較的多く保管申請がなされていました。

 

しかし、令和3年(2021年)に年が明け、保管申請件数的にやや低調に推移しているように思われます。

 

 

新しい制度ゆえにスタートダッシュは良かったものの、ある程度認知していた層に対しては需要が一巡し、件数的に落ち着いて来ているのかもしれません。

 

 

公正証書遺言の作成件数

 

上記の表は以前にブログでも取り上げたことのある、公正証書遺言の年度ごとの作成件数です。

参照:10年で1.4倍に!毎年11万件という数字が物語る遺言の必要性

 

公証役場にて公証人による確認・証人立ち合いのもと作成する公正証書遺言は、遺言書の保管制度に比べて費用が掛かる反面、内容的に不備にならない安心感があることで一定の需要があります。

参照:公正証書遺言が出来るまで

 

ただ、令和2年度に関しては、ここ5年ほど10万~11万件で推移していたものが、9万7千件ほどに減少しており、遺言書保管制度の影響が多少なりともあったものとも思われます。

 

コロナ渦における外出自粛の影響もあったかもしれません。公証役場での作成が減り、出張での遺言作成が増えたとも聞きます。そうなると公証人のスケジュール的に月当たりの作成件数のキャパシティが減った可能性もあります。

 

ただし、遺言が書かれた件数で把握できるものとしては、

遺言書保管制度の令和2年度の保管件数 16,655件 + 公正証書遺言作成件数 97,700 

 

合計すると 

 

11万4,355件となります。

 

やはり、少子化、高齢化社会の中で相続・遺言書作成に関する関心が高まっているのは間違いありません。

 

遺言書保管制度の利用の注意点

 

高齢化の進展の中で、多くの相続トラブルを身近に見聞きしたり、ニュースや新聞などでも取り上げられることも多くなっています。

 

遺言への関心の高まりもあり、この機会に遺言を書くことを検討し始める方も増えてきていますし、実際にお問い合わせも多く頂戴します。

 

せっかくだから、この保管制度を利用してみよう!と思われる方もいらっしゃると思いますが、注意点もございます。

 

 

法務局に予約して、本人が出向く手続きという厳格さから、いろいろ相談に乗ってくれそうと勝手に期待を頂く方もいらっしゃるのですが…

 

法務局の窓口では遺言書の内容については相談にのってくれません。

 

確認してくれるのは、遺言書が法的な形式・要件を満たしているかどうかだけです。

 

法務局に預けたから万事OK、死後に遺言の裁判所での検認も不要なら、今までの自筆証書遺言と違って有効性が担保されているはず、そう誤解されている方もいるかもしれません。そのように受け取っている方が居ることが、今後の課題のようにも見えます。

 

法務局では具体的な家族構成やそれぞれのご家庭の状況、家族への想い、法定相続分に配慮した遺産の分割etc…そういった内容に問題がないか、チェックしてくれるわけではありません。

 

法的に遺言の形式を満たしていたとしても、自筆・日付・名前・印鑑など簡単に要件を満たせる部分もあり、保管制度の利用はそこだけ満たせば通すことも可能です。

 

ただ、実際の内容の部分で財産目録が不正確であったり、誰に何を、が曖昧であったりと言った初歩的な部分から、財産の分割・遺留分についてのバランスを欠き、無効になる・相続争いになる、というケースも後を絶ちません。

 

 

専門家への相談もご一考を

 

せっかく遺言書を書こうと思い立ったとしても、自分だけでやるとなると、法律的な知識の不足から、間違いや検討漏れが起こり得ます。

 

遺言書を正確に、そして多くの遺族の方への配慮を漏らさずとなるなと、その内容は難易度は高くなるでしょう。

 

遺言書を間違いのない物にするため、自筆証書遺言書保管制度を利用しようか検討中であるのなら、内容面について不備が無いか別途専門家への相談をおすすめします。

 

当事務所は初回相談無料です。

自筆遺言の作成サポートは内容・打ち合わせの回数と時間によりますが、2.2万円~で承っております。

公正証書遺言作成サポート(遺言書の起案、公証人との打ち合わせを含む)が7.7万円~ + その他実費(戸籍代、登記簿謄本代、郵送料等)公証人の手数料(財産、遺言書の内容、出張の有無などにより異なる)証人2名の手配に係る費用 で承っております。オススメは公証役場で作成する公正証書遺言なのは間違いありません。

 

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